Kimlahimvic’s Diary

Rock, Book, Beer, and Soccer などのとりとめのない話

ミュージシャンの書く文章にはリズムとメロディがある。 私のお勧めする「音楽本」5選。

音楽本を読むのが大好きだ。

  

音楽本といっても、いろいろな本があると思うが、

私の興味範囲の音楽本を大まかに定義すると次のようになる。

 

 

①ミュージシャンが書いた、自伝、または音楽に関する本

②ミュージシャンが書いた、音楽とは関係ないジャンルの本


③ミュージシャンじゃない人(ライター、裏方含む)が書いた、音楽に関する本


④ミュージシャンじゃない人(ライター、裏方含む)が書いた、

音楽とは関係ないジャンルの本

 

※音楽のジャンルはPOPS、ロックが多いですが、特に問わない。

※スコアや楽譜、楽器の教則本などは今回の定義からは外す。

 

 

④はもはや音楽本とは言えないかもしれないが・・・。

 

 

 

書店の本棚に一番多いのは③ではないだろうか。

音楽批評家の評論や、ディスクガイド的な本も含まれるので、種類も数も多いと思う。

 

ライターや批評家の人たちは文章を書くのが本業であるので、

文章がうまいのは当たり前だし、資料的価値がある本も多く、

③のカテゴリーは当たり外れが少ない印象がある。

 

 

しかし、今日私が推したいのは①のカテゴリー、ミュージシャンが書いた本だ。

 

 

なぜなら、ミュージシャンの人生は一般人と比べて山あり谷あり、

普通の人生では体験しないようなことをたくさん経験してきた人が多く、

そもそも書いてるネタが面白い。

 

さらに、ミュージシャンは文章を書くことが本業ではないが、

日々、作詞を通じて言葉と向き合っているからか、

またはメロディやリズムに敏感だからか、

本当に独特な、その人だけが持つ個性的なリズムの文体を持っている方が多く、

それこそが私が①カテゴリーの音楽本の最大の魅力だと私は思う。

 

 

そんな私が愛してやまない①カテゴリーの音楽本を何冊か紹介する。

 

 

小西康陽『これは恋ではない 小西康陽のコラム1984−1996』

 

私が思うに、日本のミュージシャンで一番の名文家は小西康陽さんである。

まさに小西さんのDJのように、都会的で、洒脱でスムーズだが、

時々聞き流すことの出来ないフックが随所に挟み込まれている文体。

 

そして語られていく愛するものたちへのフェティッシュなこだわり。

レコード、名画座、女性、バー、etc・・・

 

植草甚一片岡義男山口瞳小林信彦といった、

粋な都会人的な昭和のエッセイの名手たちの系譜は、

実は小西さんにこそ引き継がれていると思う。

 

このバラエティ・ブック3部作は3冊とも、

とにかく日記もエッセイもショートストーリーも、全てが抜群に面白いが、

後半段々人生の孤独感や寂寥感がに滲み出てきて、

それがご本人の今の気分なのか、少し暗い印象になっていくのに対し、

1冊目のこの本はまだ華やかな都会ライフが描かれていて、

まるでピチカート・ファイヴの歌詞みたいだ、と思ったり。

 

 

 

 

 

 横山剣『マイ・スタンダード』

 

独特のリズムとメロディが備わった、

ミュージシャンならではの個性的な文体という点において、

クレイジーケンバンドのボーカル・横山剣さんの右に出るものはいない。

 

彼の思い出話の中に出てくるディテールの喚起力は凄まじい。

例えばこんな一文。

 

 

 

かつて本牧の街が目を覚ますのはィ夜の深い時間だった。

本牧通りに夜がくれば、VFW、IG、IG-Annex、

山手署の交差点を小港橋方面に進めば、

リキシャ・ルームといった老舗のナイトスポットが

深海の発光体みたいな淡く儚い光をポワーンと放ちながら

幻影のように浮かんでる。

なんだか現実味が全くないんだ。

 

それとは対照的に、通りの反対側のディスコ・リンディーのネオンだけが、

まるで返還前の沖縄ゴザの歓楽街みたいなギラギラで絶倫な光を放っていた。

 

 

 

 

こんな描写がそこら中に溢れている。

剣さんの文章は固有名詞やディテールの列挙に執拗にこだわることで、

単なる事実や出来事の記録ではなく、

むしろその時、そこに流れていた空気感、質感を捕まえ、立ち上がらせることに見事に成功している。

 

あの独特な話し方とも全く別の、オリジナルな文体で語られる本牧、原宿、六本木・・・

 

一度読んだら病みつきになってしまう、そんな中毒性の高い文章だ。

 

 

 

クレイジーケンズ マイ・スタンダード

クレイジーケンズ マイ・スタンダード

 

 

 

 

 

菊地成孔菊地成孔の粋な夜電波』

 

これはシリーズでもう何冊か出ているが、

TBSラジオで放送されていた同名のラジオ番組で菊地さんが喋った内容を、

ほぼそのまま文章にした本だ。

 

だから厳密には菊池さんが書いた文章では無い。

菊池さんは他にも数多くの著作があり、そちらの文章も大変面白いのだが、

なぜこの本を取り上げたかというと、私はこの本を読んで驚いたからだ。

 

当初、この本は菊池さんが話した言葉であり、書いた言葉では無いので、

ミュージシャン独特の文体を愛好する私はそれほど期待していなかった。

 

このラジオ番組が好きだったので、聞き逃した回のエピソードが読めればなあ、

ぐらいの気持ちで買ったのだが。

 

しかし、私の低い期待に反して、この本は本として、抜群に面白かった。

 

つまり、話し言葉を書き起こしているだけなのに、

ミュージシャンの独特な文体として十分に成立していた。

 

失礼ながらこのラジオ番組での菊地さんは、

思いつきというか適当というか、

与太話のような風情でいつも話しているので、

それを書き起こしたときにこんなに個性的で

読み応えのある文章になるとは思いもしなかった。

 

文字で読んでも面白いことを、

あんな思いつきのようにペラペラと話していた菊地さんの凄さを実感した。

 

言文一致とでもいうのか、 

言葉に身体性があるというか、

むしろ菊地さん自体が言葉で出来ているような、

そんな稀有な人です。

 

 

 

 

 

村上”ポンタ”秀一『自暴自伝』

 

言わずと知れた日本を代表するドラマーであり、

70年代から数々の名曲に参加してきた、セッションミュージシャンのポンタさん。

 

この本はそんなポンタさんの伝説の名曲、名盤への華麗なる参加遍歴と、

豪快すぎるキャラクターと逸話の数々を存分に堪能できる自伝だ。

 

ポンタさんの一切立ち止まることなく、

あらゆるものをなぎ倒して前に進むような半生を通じて、

はっぴぃえんど、シュガーベイブユーミンと盛り上がっていく70年代のニューミュージック、それらの人材が楽曲を提供した80年代のアイドルブームの隆盛と、

当時の興奮が臨場感を持って伝わってくる。

 

全盛期は都内のスタジオを1日何軒もはしごして走り回っていたという

ポンタさんの後ろについて回って、

数々の伝説の名曲のレコーディングに立ち会った気分になれる一冊だ。

 

 

自暴自伝 (文春文庫PLUS)

自暴自伝 (文春文庫PLUS)

 

 

 

 

和嶋慎治『屈折くん』

 

青森が誇る、知る人ぞ知るロックバンド、人間椅子のギター&ボーカル、

和嶋慎治さんの自伝。

 

あの文学的な歌詞の世界観、ブラックサバスのようなヘヴィなギターサウンド

たびたび挟み込まれる津軽弁の語りやMC、白塗り坊主の鈴木さん ・・・。

 

強烈すぎる個性はどのように形成されていったのか?

 

意外にも和嶋さんは弘前の旧家の長男で、

ボンボンであることに子供の頃から悩んでいたという。

 

そんな自意識のねじれと歪みがひねくれにひねくれて、

ロックバンドとして昇華されていくところがこの本の白眉だが、

和嶋さんの場合はそれだけじゃ終わらない。

 

青春が過ぎた40代になっても50代になっても延々と悶々としていて、

徹夜で飲んだくれた後、高円寺の片隅で倒れてしまい、泣いたりしている。

 

しかしそんなねじれまくった自分の半生を記述する、

書き手としての和嶋さんは冷静だ。

一筋縄ではいかない男の自意識の転がっていく様を、結構淡々と書いている。

 

そこがこの本の文体に独特さを生み出し、味わい深いものにしている。

 

 

屈折くん

屈折くん

  • 作者:和嶋 慎治
  • 発売日: 2017/02/09
  • メディア: 単行本
 

 

 

 

 

 

まだまだたくさん紹介したい本があるし、③のミュージシャンじゃ無い人が書いた音楽の本も面白い本がたくさんあるので、機会があればそのうち書きたい。